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10.石窟に住む人々

2002.07.10アフガニスタン

タリバン政権の崩壊によって、この国を逃れた人々が続々と戻ってきていました。しかし、住む家は破壊され、収入もほとんどなく、難民と等しい暮らしを余儀なくされているのが現実でした。
私は、岩山に残された無数の石窟がある場所まで歩いてみました。今にも崩れそうな斜面の砂利道を上っていきます。たどり着くと喉がカラカラになりました。
私はそこで、義足の年配の男性に出会いました。
彼は「タリバンによって刺されたナイフが腹部から背中まで貫通したんだ」と言って服をめくり、その傷痕を私に見せてくれました。ものすごい痕でした。それはまさに怒りと悲しみの傷でした。
悲劇はそれだけではありませんでした。
「目の前で僕が刺されるのを見た息子は、ショックのあまり右目が裏返り、もう二度と見えなくなってしまったんだ」
そう言って彼は子供を指さしました。
その子は恥ずかしそうに私を見ました。少年の目は確かに裏返っていました。その子が味わった恐怖がどれほどのものか、私はその目を通して感じることができました。あまりの恐怖と悲しみから、立っていることすらできませんでした。
その後、彼らの住まいを見せてもらいました。その狭い石窟には、親戚など合わせて3家族が肩を寄せ合って暮らしていました。
むき出しの岩肌。夏場はいいが、雪に覆われてしまうこの地域の冬をどうしのぐのでしょうか・・・・・そんな思いがよぎりました。
そこに住むおばあちゃんに話しかけてみました。
「おばあちゃんは何歳なの?
わからないと首を振ります・・・・・。
「家族は何人ですか?」
「主人、息子、息子の奥さんと二人の孫が、全員目の前で殺されて私は一人だよ・・・・・」
そう言っておばあちゃんは泣き始めたのでした。
(何か言おう、何か言ってあげなきゃ・・・・・)
そう思っても言葉が出てきません。
私はおばあちゃんの横に座り、ずっと手を握って慰めることしかできませんでした。
「こんな生活、こんな状態で、もう生きたくないんだよ・・・・・」
「ああ・・・・・そんなこと言わないで。おばあちゃん、生きて・・・・・」
でも、彼女は頑なに首を振り続けました。
そしてもう一度、「もう生きていたくない」と言ったのです。
私はおばあちゃんの固くてひんやりとした手を握り続けました。
「家族を目の前で殺されたような経験を私はしてないから、何を言ったとしてもおばあちゃんを慰められないかもしれない。でも、私がおばあちゃんの子供で、おばあちゃんを残して殺されてしまったとしたら、天国からずっとおばあちゃんをみているし、少しでも永くおばあちゃんに生きていてほしいと願うよ。だから、生きていて・・・・・」
そう、おばあちゃんに伝えました。
しばらくしておばあちゃんは、おばあちゃんの手を握っている私の手の上に、もう一つの手を重ねてくれました。そして笑ったのです・・・・・。
通じたんだ――。
別れの時、おばあちゃんは私を抱きしめ、頬にキスをしてくれました。
私は旅人です。おばあちゃんの悲しみを引き受けることなど、私にはできません。でも、最後におばあちゃんは笑ってくれたのです。
悲しみに耳をかたむけるばかりで何もできない私を、優しく抱きしめてくれたおばあちゃんのぬくもりは、今も残っています。

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