私が出会った数え切れない悲しみと新生への希望・・・・

5.血生臭いホテル

 その町並みに驚きながら、まずはホテルにチェックインしました。カブールには宿泊施設は2つしかありません。ここは、そのうちの1軒です(世界的に名前は有名なホテルでしたが・・・・・)。
 自分の部屋の鍵をもらい、ドアを開けた私は思わず悲鳴をあげてしまいました。
 天井が抜けて、大きな穴が2つあいていたのです。真っ黒で不気味な天井裏が見えたままになっています。そして窓にはいたるところに銃弾の痕。壁には飛び散った何か赤黒いしみが・・・・・。(嘘でしょ!? これ、血・・・・・!?)
 いったいこの部屋で何があったというのでしょうか? まるで人が天井から侵入してきて、誰かに向かって発砲したとしか考えられないような有り様の部屋でした(後から聞くと、大方、予想は当たっていました)。
 私のところだけかと思い、すぐスタッフの部屋も見に行きました。一人のスタッフの部屋は人が泊まれるような状態ではありませんでした。窓にロケット弾が打ち込まれたかのような、銃痕よりも大きな痕があり、まさに全開状態。天井ごと落ちていたり、部屋中に多量の血痕があったり、ベランダにはものすごい数の銃撃戦のあとが残されていたのでした。
 聞けば、ここは戦争中は激戦となった地区で、特にこのホテルには多くの重要人物が泊まっていたために集中的に狙われたそうなのです。
 もちろん、今までこんな怖い場所に泊まったことなどありませんでした。でも、文句は言っておられません。ここはアフガニスタンなのです。野宿よりはいいと思うしかありません。
 砂だらけ、ほこりだらけ、もちろんテレビも電話もタオルもティッシュもない。カーテンも閉まらず、ライトもなく、クーラーもきかない。あるのは砂やほこりにまみれたベッドとお手洗いだけ。お湯も出ないため、とにかく体も頭もクールダウンしたくて、かろうじて出る水のシャワーを頭から浴びました。バーミヤンに移動したらホテルもない、もちろんシャワーもベッドもないと聞いていましたから、私の部屋は少量の水が出るだけましだったのです。歯磨きや飲料用には、ドバイから持ってきていたペットボトルの水を使いました。
 夜になり、日本から持ってきたろうそくに火をつけ、「行く先には、いったい何が待っているんだろう・・・・・」と考えながら、ギシギシと音がするベッドに横になりました。
 でも、疲れているのに暑くて眠ることができません。滝のような汗が流れ出てきます。それでも、男性スタッフがしていたように窓を開けて寝ることは怖くてできませんでした。
 長旅の疲れから眠気はすぐにやって来るのですが、そのたびに、うだるような暑さと怖さで何度も目が覚めました。それを繰り返すうちに、いつの間にか朝になっていました。
 朝の支度をするために、ベッドから体を起したときでした。ポタポタポタ・・・・・血だ! 怪我?
 パニックになりながら曇った鏡に顔を映しました。それは鼻血でした。
 私は鼻血に無縁の体質でしたから、この出血には驚きましたが、実はスタッフも朝、同じ経験をしていたのでした。それは、夜のうちのあまりの暑さや乾燥に、鼻の粘膜が対応できない状態になって起こる現象だということでした。
 アフガニスタンの旅はまだ始まったばかり。早く自分の体がこの環境に適応してくれることを、心から祈った朝でした。

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